終わったからと言って全てを無かった事にはできないよ。
2018年8月に私は上司から「立て直してほしい店舗がある」という依頼のもと、ある店舗に異動を命じられました。
会社の中ではそれなりに実績もあり、店長としても4年という経験、勤務態度も評価されていたからこそ赤字店舗を黒字化してほしいという依頼でした。
こういった書き方をすると聞こえは良いですが、実際はその話は何度か断っていました。
何故なら
噂が広まって誰でも知っているような酷い店舗だったからです。
チェーンの居酒屋で働いた事のある人ならわかりますが、他の業種に比べてやる気のない社員、どうしうもない社員が一定数います。そして、このやる気のない店長のお店は当然酷い状態になっていきます。
私が異動を命じられた店舗はその中でも格段に酷い店舗でした。
まずは店が汚い。ゴキブリが大量に沸いている。月に1回は本社クレームを貰っている。料理はメニューブックに載っている写真とは程遠く、レシピを遵守されていない。アルバイトはおしゃべりに夢中でお客様は二の次。
言い出したらきりがありません。
そんな想像すると吐き気もするような酷い店舗にマネージャーから何度となく異動の話しをされ、遂には私が折れて異動する事に決めました。
異動当日
異動する際は現店長、新店長、マネージャーの3人で書類を確認しながらの引継ぎを
行っていくのですがここで事件が起きます。
お店に保管してある鍵の本数が合わない(たりない)。書類もたりない。そもそもシフト自体が適当に作られているので、引継ぎと伝えているにも関わらず、お店が忙しくなり店長が営業に入ってしまい1時間以上私とマネージャーが待たされるという始末。
最終的にお客様がいるのにも関わらず酷過ぎてマネージャーが怒鳴るという結末に。
当時をアルバイトと振り返っ時に「あの時は本当にはせ川さんがかわいそうだった」という位悲惨なスタートです。
内部からみたお店の状態
そんなカオスな状態から私の異動初日は始まりました。
酷いと言っても、いつまでも愚痴を言っている訳にはいきません。私に命じられた課題は立て直しです。急いで取り掛からなければいけません。
まずはお店の現状を分析していきます。最初は第三者の目線で店内、スタッフ、お客様を見れるので、この最初に感じた事がとても大事になってきます。
まずは店内の汚さです。そもそも掃除機も壊れていたので、掃除機がけも行っていなかったのでしょう。客席においてある荷物置きはボロボロでとても自分の荷物を入れようとは思えない物でした。テーブルは汚く、お箸や取り皿等も適当に置かれておりマニュアルとは程遠い酷い状態です。
キッチンから出てくる料理は盛り付けも量も、適当。味も作る人間によってばらつきがあり、よく月1回の本社クレームで済んでいたなというレベルです。
必死に改善していく日々
そんな状態から私はお店を立て直す為にお昼の12時から午前3時迄1日15時間以上毎日働き続けました。休みの日も出勤して。
そしてどんどん改善に着手していきます。
アルバイトと1対1の面談を行い、
今のお店の現状(赤字額はその年で累計100万を超えている)
このままこの状態でいくとどうなるのか(このまま改善しないと閉店になる)
周りの店舗からどう見られているか(バイトも酷いと他の店舗に噂が回っている)
そのような状態なので店長が変わったから安心という事ではないとはっきりと伝えました。あなた達も変わって下さいと。
また、売上に対してアルバイトの在籍人数がかなり居たので他にアルバイトを探す様に伝えました(前任が何の計画性も立てずに採用ばかり行ったので20人以上もいました。平均売上から見る適正在籍人数は8人です)
今の自分たちの現状を理解してもらう為にしょっぱなから厳しい事を伝えました。
店長だけの責任ではない事。あなた達にも少なからず責任はあると。
毎日その日シフトに入っているアルバイトと面談をしながらも同時進行で他の業務も行っていきます。掃除。アルバイトの再教育。人員の削減。(何人かクビにしました)
人数が多いため、連絡ノートを作成し共有。等々とにかく奮闘しました。
努力のかいあって黒字化に成功
そんな慌ただしい毎日も気付けば5か月が過ぎました。
そして繁忙月という事もありますが、見事黒字化に成功!
その月の利益は70万出す事が出来ました。
これはとても嬉しかったのを覚えています。
そして、アルバイトの子達と一緒に働く上で感じた事は、皆環境によって悪い方向に流れてしまったのだという事です。
酷いと噂だったので、それなりに覚悟を決めて毎日再教育するつもりでいきましたが働いていく中でそれぞれのポテンシャルはもの凄く高かったのです。
正直他のどの店舗よりもポテンシャルが高かったのを今でも覚えています。
人は環境によって良くも悪くもなるという事を実体験を通して再認識する事ができました。
閉店の通達
利益を出した12月から遡る事1か月前。
11月にマネージャーが店舗を訪れました。その時にはお店の状態も雰囲気もだいぶ良いものになってきていたので、マネージャーも良くなったと褒めていました。
「少し同業他社を見て回ろうか」とマネージャーから声をかけられ、一緒に外を歩く事に致しました。
「12月で閉店が決まりました」
いきなりです。
立て直しの為に日々奮闘する私にいきなり強烈な言葉が耳から入ってきました。
結果から見ると12月こそ利益は出ましたが、異動した8月から11月迄ずっと赤字続き。
本部もこれ以上はという事で決断を下したのでしょう。
こうして翌年1月6日に閉店となりました。
私の奮闘の日々はあっさりと幕を閉じてしまいました。
その後
たまに私が働いているお店に飲みに来てくれる子もいます。
そんな中で「はせ川さんのみに行きましょうよ!卒業してからの方が俺たち元バイトは強く繋がっているんですよ!それははせ川さんのおかげです!」
と言って頂ける事がありました。
それは本当に嬉しく、頑張った甲斐があったと感じる瞬間でもあります。
しかし、それと同時に何だかもやもやとした気持ちが残るのも正直な気持ちでした。
飲み会に参加するメンバーを聞いて、はじめは私も参加と伝えていたのですが、毎日毎日寝る前に考えるようになりました。ついには考え過ぎて寝れなくなる日が続きました。
この気持ちはなんなのだろうと常に仕事中も自問自答する毎日が続きます。
そして結局飲み会は断る事にしました。
気持ちの正体
私は来る日も来る日もこのもやもやは何なのだろうと考えましたがおそらく
頑張ったバイトはもちろんいる。でも、結局最後まで変わらなかった、変わろうともしなかったバイトもいる。
この変わろうとしなかったバイトが許せなかったのだと思います。
私を誘ってきたバイトは「はせ川さんのおかげです。俺ら皆感謝してます」と伝えてきましたが、そこなんです。
皆は頑張っていないんです。頑張っていないメンバーもあの時は。。。と一緒になってお酒を呑む事が私には許せなかったのです。
アルバイトにも危機感を持たせ、一緒になって変わってくれた、お店の為に頑張ってくれた、お店の為に努力してくれた。
でも皆ではないんです。
それを私と私の指示を聞いてくれて頑張ってくれた子と同じフィールドで来ないで欲しかったのです。
私にはそれがどうしても許す事が出来なかったのです。飲みに来るメンバーの中には最後の最後でクビにしたメンバーもいました。
そんな子達と「あの時は大変だったよね!」と笑ってお酒を呑む事は私はしたくないと思ってしまったのです。
器が小さい人間だと自分でも思いました。
せっかく誘ってくれたんだから、笑って一緒にお酒が飲めれば幸せじゃんとおそらく大半の人が思うでしょう。
でも、それをしてしまったら頑張った自分の日々を否定してしまうような気がして嫌だったのです。
これがもやもやの正体でした。
今感じる事は断って良かったと心から思います。周りから何と言われようと。
終わったからと言って全てを無かった事にはできないよ。