呼ばれてもいないのに長野に行ってしまった話。(後編・完結)

日曜であったがお蕎麦屋さんは空いていた。

というより、私と部長さん以外のお客さんはまだいなかった。

 

そこで2人でざるそばと天丼のセットを注文する。

今日は面談よりもむしろ観光がメインになってしまった。それもずっと部長さんに車を運転して頂いていたので、何から何までお世話になりっぱなしだった。

 

今日は5時間以上一緒に居る中で、なんとなく私はこの会社に就職はしないだろうなと感じていた。それはおそらく相手の部長さんも感じ取っていたはずだ。

何故かと聞かれると、はっきりとした理由は説明できない。直感という曖昧な表現になってしまうが、でも不思議とそういう気持ちになった。

 

決して相手の企業に不満があるとかそういう事ではない。

入社するかもわからない私に対してここまでしてくれたのだ。むしろ良い印象しかなかった。

 

だからこそなのか、私は最後に思っていた事を正直に伝えた。

 

「正直今回のスカウト会社の方、私信用してないんですよね」

 

そう思った時には口から言葉が出ていた。

 

我慢できなかったのか、あまりの違和感から不満に変わり誰かに言いたかったのか、相手の企業さんも何か違和感を感じているのではないか、自分の頭の中に様々な想いが溢れて口から言葉として出ていた。

 

驚くかと思われたが、部長さんがその後発した言葉は意外なものだった。

 

「実は私たちは最初のテレビ電話での面談後はせ川さんの事断ってるんですよね」

 

「え。。。」と私は驚いた。

実は私は一度断られていたのだ。

では何故今日このようにまた会って面談をして頂けたのか聞いてみた。

 

「スカウト会社の方から長谷川さんが職場見学をしたいと言っていると連絡があったからですよ。それで交通費を出して頂けないかと。」

 

初耳だった。

 

私は職場見学をしたいと 自分から言った 覚えは全くない。

むしろ相手の企業さんからそう提案されたので、それならという事で今日長野に来たのである。

 

私はその内容と今迄の経緯も伝えた。

 

実は私も一度、テレビ電話での面談後断っていたのだ。

あまりにもスカウト会社の方が移籍を急かす事、そんな急には転職できない事、もっと考えてから決めたいと思っていたので、私の考えや想いを全く反映せずに話を進めようとするスカウト会社の方に不信感が募っていた事。

なのでそんなに急いで答えを出さないといけないなら今回はお話はお断りしますという形で断っていたのだ。

それに加え、最初スカウト会社から提示された年収は500万だった。しかし、それはいつしか450万に変更されていた。やたらとホワイト企業という事も推してきた。

「こんなホワイト企業あっていいのかっていう位ホワイトなんですよ!」

「これから縮小していく飲食業界より将来性や生涯年収の面で見ても、地方の安定している商社への転職は中々ないですよ!」

とやたら良い話ばかりをしてきた事も伝えた。

 

では何故今回長野に来たかと言うと、断った後に「是非社長面談に進んで頂きたいとお話が来ております」というスカウト会社からLINEが入り、周りにも相談しじゃあせっかくなら面談させて頂きたいですとお伝えしたら、「仕事のイメージをしやすい為にも一度職場見学に来てみませんか」と相手企業様からお言葉を頂きましたとスカウト会社から連絡が入ったので、今日私は長野に来たのである。

 

それらの事を全て伝えた。

 

部長さんは驚いていた。

私たちは最初に断ってからそのような事は言っていないとおっしゃていた。

 

長谷川さんが職場見学をしたいと言っていると聞いたので、交通費も出しますし、こちらとしては職場見学は全然問題ありませんよ。という話はしたという。

しかし、その後全く連絡がこないのではせ川さんは当日何で来るのか、何時頃に来るのか等スカウト会社からの連絡が無かったので、前日に私の携帯電話に直接電話があったのである。

 

全てが繋がった。

 

さらに部長さんは、このスカウト会社に最初依頼した時の事もお話してくれた。

 

最初にスカウト会社に依頼した時はスカウト会社の社員が6人でヒアリングの為に来たとの事だった。

そして依頼してから1週間経過したが、スカウト会社からは全く連絡が入らなかったので怒ってどうなってるんだと電話してから、やっと人材の紹介をしてきたとの事。

 

私も以前スカウト会社の方から、すでに1名この企業様に都内での営業職で移籍が決まってもうすでに働いている方がいると言うのは聞いていた。

 

しかし、これに関しても部長さんは最初に交わした契約書の下の方に小さい文字で

”移籍が予定より早く決まった場合は通常よりプラスの移籍金を頂戴する”事が書かれていたという。よ~く見なきゃ誰もわからない位小さな文字で。と仰っていた。

 

そして、2人目は面談したがその方は”ガソリンスタンドでの自動車整備の仕事”と聞いて面談したが、実際は私と同じ所長(将来はマネジメント業務を担当。もちろん自動車整備の仕事もあるので私も自動車整備士の資格は入社してから取って頂きますと言われていた)職での募集だったので、その方は話と違うという事になり移籍の話にはならなかったという。

 

こういった経緯から、相手の企業様もスカウト会社に不信感が募っていたとの事。

テレビ電話で面談した時に居た取締役の方は、もうスカウト会社を変えるとかなり憤っているとのお話も聞いた。

それはそうだ。

まずこのスカウト会社を利用するにあたり月単位でそれなりの金額が発生する。

そして移籍が決まった際も金額が発生する。

以前初めてお会いしたスカウト会社の方に聞いた話によると、転職サイトではなく、転職を考えていない人を移籍させるので、通常の転職サイト等よりかは利用金額は高いと仰っていた。

 

結果的に最初から今日の面談はスカウト会社が移籍させたいが為に双方に嘘をついて設けた場だったのだ。

全員、スカウト会社に振り回されたのだ。いや、振り回されたなんて生ぬるい言い方では許せない。

私も時間を作り長野に来た。

部長さんもおそらくお休みだったろうに、時間を作って頂き、ましてや帰りの新幹線迄の間様々な場所に観光に行ってくれた。

交通費も相手の企業様に出して頂いている。

所長さんも仕事中なのにも関わらず、いやな顔一つせず面談に付き合って頂いた。

振り回されたなんて言い方じゃすまされない。

 

私は今回のスカウト会社の担当者が許せなかった。

転職とは人の人生が変わる。

今の会社で成績が出ない、上手く能力を発揮できずに活躍できない人でも、転職し新しい環境に行って生まれ変われる人もいる。そこで、素敵な異性と出会い結婚して新しい家族が出来る事もある。

 

スカウト会社と言うのは、その人の人生を左右する程の影響力を持った仕事をしているにも関わらず、このような嘘をついて移籍させようとする人間がいる事に私は許せなかった。

 

私はスカウト会社から送られてきた今迄のLINEを全て部長さんに見せた。

部長さんもショックが大きかったと思う。何せ今迄騙されていたのだから。

私は、今迄の違和感が最後の最後で解決して何だかすっきりしたような感覚もあった。

そういう事だったのか、と妙に納得したのを覚えている。

 

帰りの新幹線の時間もあったので、お店を出る事にした。

最後は駅まで送って頂き、私は車が見えなくなるまでお辞儀をした。

申し訳なさと感謝の気持ちでいっぱいだった。 

 

新幹線に乗ると、どっと疲れが出たが寝れなかった。

久々にのる新幹線はもっと景色を楽しみたかったなと思いながら気付けば降りる駅についた。

 

 

後日スカウト会社から連絡があった。面談はいかがでしたか?と。

私は「全て聞きましたよ。そもそも相手の企業様も断っていたんですね」

と直球でぶつけてみた。

少し焦った様子だったが

「そうなんですよ。実は~」とぺちゃくちゃと話し始めた。

それを聞いて私はこの人には何を言っても通じないなと思った。

最初に言い訳の言葉が出て来る。謝罪の言葉がない。

この人は今迄もこういう風に仕事をしてきたのだろう。自分の為か、会社の為かは知らないが嘘をついて契約を取ろうとしている。

救いようがないと思った。

嘘をついていて、指摘されたら真っ先に言い訳が出て来るいい歳した社会人はまともではない。

 

上席からの説明をきちんとして頂こうかとも思ったが止めた。

私はとりあえず今回のお話は断る事を告げ、電話を切った。

後日相手の企業様からは本当にやる気があるなら来てほしいという返答だったらしいが私はそれも断る事にした。

 

こうして私の初めての長野に行った話は終わりである。

 

 

ちなみに私は長野に行った3か月後の9月8年勤めていた会社を退職した。

自分で転職活動を行って転職先を見つける事が出来た。

 

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諏訪湖 雲の間から差す光が神々しい。しかし湖自体はそんなに綺麗ではなかった。。。